現代俳句『翌檜篇』を読む 2019年2月号、3月号
今年から、現代俳句協会の機関紙『現代俳句』で青年部が若手の作品に注目する『翌檜(あすなろ)篇』が始まりました。
俳句作品掲載が始まった二月号から、順次読んでいこうと思います。基本的に一名八句作品ですが、一句ずつ引いていきます。
二月号
スーパーを一周したる毛皮かな 野住朋可
関西の新進俳句雑誌「奎」の副編集長を勤められているとのこと。おそらく毛皮を着た客がスーパーの中をぐるりと歩いている景なのでしょうが、なにやら巨大な毛皮でスーパーマーケットを包んでしまうようなイメージも同時に沸いて来て面白いですね。
憐れみの灯を失へり冬の夜 廣島佑亮
小川双々子系の『韻』同人で、東海地区青年部長をされている廣島さんです。「憐れみ」の灯を失うことで孤独を深めるようで、一方「憐れみ」から解放され自由になる感覚もあります。廣島俳句は形容詞の使い方に個性があるように思います。
綿棒の鼻奥過ぎてゆくぬめり 脇坂拓海
松山大学の四回生、『里』所属とのこと。光景というよりは触感を把握した一句。心地よさと不快さのギリギリのところを攻めています。
少年の肌晴れてきし湯ざめかな 佐々木紺
BL俳句誌「庫内灯」編集部とのこと。湯上りの蒸気に曇っていた少年の肌が、やがてクリアに輝きはじめる瞬間。清潔な官能性があります。
三月号
熱燗やきちんと褒め言葉なのに 岡村知昭
『豈』『狼』『蛮』に所属、句集「然るべく」を出しておられます。酒の席、言葉を選んで褒めたつもりが、なぜか険悪なムードに。人を適切に褒めるのもなかなか難しいものです。
みずいろの食物連鎖レース編む 加藤絵里子
『山河』所属とのこと。連綿と続いていく自然界の食物連鎖のように、みずいろのレースを編んでいく。喰うか喰われるかの熾烈な連鎖を爽やかな営みと捉える視線が新鮮です。
虫卵を裂きにじみだす白が春 家藤正人
『いつき組』所属、愛媛県現俳青年部長を勤められています。エリオットの「荒地」にあるような、生命にとって華やかで同時に残酷な季節、それが春。虫卵の質感と色が鮮烈です。
襟足のきれいな男冬木立 藤田俊
『船団の会』所属とのこと。襟足に注目されるのは長く女性でしたが、ここでは男性の襟足の美しさが捉えられており、現代的。冬木立の清潔さとうまく取り合わされています。