現代俳句『翌檜篇』を読む 2019年4月号、5月号
続いて、現代俳句『翌檜篇』四、五月号を読んでいきます。各人八句作品ですが、一句ずつ抜粋して鑑賞します。全体はぜひ本誌で。
四月号
さくらひらく芯にどっかりとあんこ 赤羽根めぐみ
『軸』同人、『南風』会員、第35回現代俳句新人賞受賞者です。さくらの芯の奥が暗く見える光景と、桜餅の中の餡子の存在感をあわせて表現しています。「どっかり」の力感がいいですね。
いきものに粘膜のある朧かな 成田一子
芝不器男賞大石悦子賞受賞、『滝』主宰とのこと。いきものの存在を粘膜として捉えました。粘膜の濡れた液体の質感と、朧のふわりとした感覚がうまく取り合わされています。
春の泥平成のみ残留 五六八我楽
武蔵野美術大学大学院修士課程に学ばれているということ。平成という時代に春の泥が取り残されています。表面的に時代が変わったように見せても、足元はなんら変わっていない。
密談の形の蕨摘みにけり 若林哲哉
『萌』『奎』『金沢大学俳句会』所属。頭を寄せ合ってひそひそ話をするような形に生えている蕨の生態をうまく表現しています。
五月号
裏声を集めて梅の花ひらく 柏柳明子
『炎環』同人、『豆の木』『蘖通信』参加、第30回現代俳句新人賞受賞。コーラス練習の場の近くにあるのだろうか、裏声の響くなかに梅の花が開いてゆく。緩やかでありながら華やかな空気感。
湯豆腐の三割ほどはナルシズム 久留島元
『船団の会』所属、関西現俳青年部長。万太郎に喧嘩を売っているのか、と、ちょっと笑ってしまいました。確かに京都あたりで湯豆腐を食べると数千円はしますし、本来豆腐はそこまで高価なものではなく、雰囲気ってこともありますね。
かきつばた笑へば出始めるしやつくり 野口る理
句集『しやりり』を上梓されています。笑ったはずみにしゃっくりが出てしまう、明るいホーム感。かきつばたの笑顔のような華やかさがぴったり。
肌に血の玉ふくれ子がそれを吸ふ 岡田一実
第32回現代俳句新人賞受賞、句集『記憶における沼とその他の在処』など。八句全て無季の神話的意欲作です。ぷつりと針で刺したような出血、それを吸う子。吸血の儀式のような伝奇的耽美性が漂います。