夜蟻雑記

俳人・赤野四羽の俳句関連雑記。

岡村知昭 句集『然るべく』

岡村知昭-句集『然るべく』

著者から寄贈いただきました、御礼申し上げます。

集中より引きます。

あわゆきと鼻血のひさしぶりである

花冷のついにはずれぬ指輪かな

石棺の蓋どこへやら春暑し

宵闇の揉めることなき断種かな

大男やめたくなりぬ濃紫陽花

八月が入りきらない母屋かな

コントロール下のひぐらしは酸っぱいか

プリンしか食べられなくて冬日

剥製の犬幼くて冬の星

赤福やあらゆる中止喜ばし

時事や社会性を感じさせる句と、境涯からくるユーモアとペーソスを滲ませる句が混然となり、独特の諧謔味が生まれてきます。

本来「俳」というのは従来の美的感覚や権威からずれたところを攻める面白さにあるものでしょうし、その意味で岡村さんは「ダークホース」ではなく、むしろ「俳」の正道を行っているのではないかと思います。