『朱夏』 なつはづき
なつはづきさんの小冊子、『朱夏』をいただきました!
洒脱なデザインの表紙に、きらめく紙質の手触りがとても気持ちいいです、
現代俳句新人賞受賞作など各媒体への掲載作品から、コンパクトに「なつ俳句」の魅力が味わえます。
地に刺さる喪服の群れよ油照り
雪女笑い転げたあと頭痛
虫時雨この横顔で会いに行く
古絨毯家族そろっていた凹み
狐火や絵本に見たくないページ
巻き髪を水でほどいて緑の夜
東海地区現代俳句協会 第二回JAZZ句会LIVE in 名古屋開催!
2019年3月30日土曜日、名古屋市今池のカフェ「あらたると」にて、東海地区現代俳句協会青年部企画の第二回JAZZ句会LIVEが開催されました。
当日はいわゆる花曇、カフェのすぐ横の今池公園の桜を眺めながら、華やいだ空気の中で会が始まります。前回は14時開始で1時間延長したので、今回は13時から開始になりました。
進行は前回と同様、兼題「桜・音・酒・絵」から選び、俳人3名がおのおの句を詠んで発表します。発表者は句について簡単に説明し、それぞれの句に対し、ミュージシャンが2~3分程度の即興演奏を行います。これを一ターンとし、まずは青年部会員が3名例として行います。
その後のターンは会場から参加者を募り、順次進行していきます。ターン間はあらたるとさんのオリジナルカクテルや珈琲、お料理を注文して談笑タイム。あらたるとさんのマスターは画家でもあり、店内のアートな雰囲気がインスピレーションを刺激します。
今回も会場から次々と参加があり、大変盛り上がりました。発表句と作者は以下の通り。
咲き満ちる桜に狂ふ我らあり | 廣島佑亮 |
一人ずつ娶らん桜散りぬるを | 赤野四羽 |
たましひに触るるたましひさくらの夜 | 福林弘子 |
生者には無音ただただ桜散る | 伊藤政美 |
濁音なき新元号や花の雨 | 岡村知昭 |
頬杖にグラスの音を聴く春愁 | 斎乃雪 |
襖絵の虎に目のある朧かな | 高橋直子 |
不死鳥の絵とアボリジニ桜散る | 村山恭子 |
一幅の絵巻のごとく花の雨 | 松永みよ子 |
俳人がずらり海市のショットバー | なつはづき |
あきらめることばかりなり花見酒 | 廣島佑亮 |
深酒の香気を交わす花の暮 | 赤野四羽 |
内田裕也と内緒話は花の下 | 武藤紀子 |
おのづからハウリングして花の雨 | 寺尾当卯 |
囀りやLOVEの発音正されて | 諏佐英莉 |
嵯峨野へと続くジャズの音花の音 | ひらの浪子 |
さくら花鳥の行き来はサキソホン | 稲葉千尋 |
乱といふほどの花浴ぶをとこかな | 永井江美子 |
台北ノ地下ノ酒場ノ花ノ屑 | 武馬久仁裕 |
花の精ごときスーツとロック酒 | 村山恭子 |
岡村さんは新元号の句、見事的中でしたね。
演奏者は野道幸次Ts 武藤祐志Gt 浅田亮太Drs 大森菜々Pf。東海地区の若手ミュージシャンですが、ジャズだけではなくあらゆるジャンルの即興演奏に対応できる凄腕です。わたしも随時尺八とサックスで参加しました。
進行の様子を一部動画にまとめてyoutubeにアップしました。
www.youtube.comはるばる滋賀や神奈川からも参加者があり、またあの内田裕也に声をかけられて食事をしたエピソードなど、驚きの裏話もちらほら。
ラストはなつはづきさん、岡村知昭さんの20句朗読とセッションで、大盛り上がりの中で締めとなりました。
その後は栄の文壇バーにて打ち上げ。
今回も大変好評だったため、次回企画が動き始めました。秋頃になる予定です。
ご興味持たれましたら、ぜひ東海地区現代俳句協会にお問い合わせくださいませ。
記憶における沼とその他の在処 岡田一美句集
著者から寄贈を受けました。御礼申しあげます。
集中より10句。
瓜の馬反故紙に美しき誤字のあり
阿波踊この世の空気天へ押す
椋鳥の天へ地へその粘りかな
雨降る地球に筍飯の炊き上がる
あぢさゐや爪切るやうな生き心地
みづうみの芯の動かぬ良夜かな
田作りの艶に冷えゐて食はせあふ
夜の森や濡れてマフラー置かれある
幼生をかなしむ蛇の死後なりき
首といふ支え長しや死人花
著者の岡田一美さんは愛媛県在住の俳人。2010年、第3回芝不器男俳句新人賞にて城戸朱理奨励賞受賞。2014年、第32回現代俳句新人賞受賞。2015年より同人誌「らん」同人。
皆川博子作品のファンであるということですが、そういわれてみると共通するモチーフがあるように思われます。
書名にもある「沼」、「雨」、「湖」、「粘り」、「首」…いずれにおいても「湿り」そして「境界」という通奏低音が鳴り続けており、生と死にまつわる表現に独自の質感を与えています。手法においては動詞の多用がみられ、これは金子兜太も得意であったのですが、冷たさの中にも密度と力強さを感じさせる効果を出しています。
洒脱な装丁もあいまって、とても耽美性の高い一冊に仕上がっていると思います。
俳句の不思議、楽しさ、面白さーそのレトリック 武馬久仁裕
武馬久仁裕の俳句レトリックに関する評論集。著者から寄贈いただきました、御礼申し上げます。
武馬久仁裕は小川双々子に師事、坪内稔典の『船団』創刊に参加、夏石番矢の『吟遊』創刊に参加など、現代俳句の先鋭的な活動に多く関わってきた俳人です。
ここで紹介されている技法もとても多様で、従来の俳句入門書にはないものがいろいろいろいろ取り上げられています。
たとえば「上と下」「六月」「両掛かり」「遠近法」「ないと言ってもある」「荘厳」「動詞で取り合わせ」などなど。
紹介されている句も、芭蕉、子規から池田澄子、夏石番矢までとんでもなく射程が広く、それだけでも視野が広がります。
新鮮な俳句レトリックのヒントを得たい方にお勧めです。
付録として収められている「小川双々子を重層的に読む」や正岡子規論も読み応えがありますね。
岡村知昭 句集『然るべく』
著者から寄贈いただきました、御礼申し上げます。
集中より引きます。
あわゆきと鼻血のひさしぶりである
花冷のついにはずれぬ指輪かな
石棺の蓋どこへやら春暑し
宵闇の揉めることなき断種かな
大男やめたくなりぬ濃紫陽花
八月が入りきらない母屋かな
プリンしか食べられなくて冬日向
剥製の犬幼くて冬の星
赤福やあらゆる中止喜ばし
時事や社会性を感じさせる句と、境涯からくるユーモアとペーソスを滲ませる句が混然となり、独特の諧謔味が生まれてきます。
本来「俳」というのは従来の美的感覚や権威からずれたところを攻める面白さにあるものでしょうし、その意味で岡村さんは「ダークホース」ではなく、むしろ「俳」の正道を行っているのではないかと思います。