夜蟻雑記

俳人・赤野四羽の俳句関連雑記。

記憶における沼とその他の在処 岡田一美句集

Amazon CAPTCHA

著者から寄贈を受けました。御礼申しあげます。

集中より10句。

瓜の馬反故紙に美しき誤字のあり

阿波踊この世の空気天へ押す

椋鳥の天へ地へその粘りかな

雨降る地球に筍飯の炊き上がる

あぢさゐや爪切るやうな生き心地

みづうみの芯の動かぬ良夜かな

田作りの艶に冷えゐて食はせあふ

夜の森や濡れてマフラー置かれある

幼生をかなしむ蛇の死後なりき

首といふ支え長しや死人花

著者の岡田一美さんは愛媛県在住の俳人。2010年、第3回芝不器男俳句新人賞にて城戸朱理奨励賞受賞。2014年、第32回現代俳句新人賞受賞。2015年より同人誌「らん」同人。

皆川博子作品のファンであるということですが、そういわれてみると共通するモチーフがあるように思われます。

書名にもある「沼」、「雨」、「湖」、「粘り」、「首」…いずれにおいても「湿り」そして「境界」という通奏低音が鳴り続けており、生と死にまつわる表現に独自の質感を与えています。手法においては動詞の多用がみられ、これは金子兜太も得意であったのですが、冷たさの中にも密度と力強さを感じさせる効果を出しています。

洒脱な装丁もあいまって、とても耽美性の高い一冊に仕上がっていると思います。