夜蟻雑記

俳人・赤野四羽の俳句関連雑記。

加藤知子句集『櫨の実の混沌より始む』

著者より寄贈を受けました。ありがとうございます。

加藤知子さんは「連衆」「豈」同人、現代俳句協会会員、九州作家協会会員。

月下美人咲く産道をひろげつつ

春キャベツきれいに耳を削ぎ落す

病室は無季家族写真閉じてあり

いづれさざんか人体かくもけなげ

兵士に麻薬しづ子に小石逝く春の

銃口に似て貞操帯の夕焼ける

半分の肺の青さよ夏時間

「ライオン逃げた」らし春夜の「 」

連れ蝶の一つ外れる余震かな

平成のてっぺんかけたか地震記録

九州の俳句シーンはじつに層が厚いですね。

横山白虹、杉田久女、篠原鳳作、橋本多佳子、中村汀女などなど、歴史的に進歩的な俳人の土壌があるのでしょう。

加藤知子さんの句風も自在。

写生、境涯詠、社会詠、それらから出発して独自の幻視にいたっています。繊細さと激しさの同居する詩性に、飄々とした俳味が加わって小気味がよく、新興俳句の力強い流れを感じさせます。

加藤さんは先日紹介した短歌俳句誌Weの発行人でもあり、短歌と俳句、互いの良質な部分を高め合っておられるようです。